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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)4768号 判決

本籍並びに住居

岡山県児島郡琴浦町大字下村二八三七番地

農業協同組合長

片山典雄

明治二六年四月一五日生

右の者に対する医師法違反教唆、詐欺被告事件について昭和二七年八月七日広島高等裁判所岡山支部の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破毀する。

本件を広島高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人藤井万吉の上告趣旨は末尾添附別紙記載のとおりであつて、刑訴第四〇五条所定の上告理由に該当しない。(所論(第三)1、一は判例違反をいうが所論掲記の判例は本件に適切でない。)しかし原審の認定した処によると被告人は選挙権者京黒清香、同谷蔵、依田一二三、渡辺ハツの四名に特別投票用紙等を直接郵送させたのであるから、自己に領得する意思が無かつたことは明である。右四名に領得させたのであるが同人等がもし自身投票場へ行つて投票をすることが出来ない病人であり、右投票用紙を受取る権利のある者である(この事実は原審挙示の証拠により大体認め得る様に思われる)なら、たとえ、被告人が前記投票用紙等を郵送させた手段に欺網行為があつたとしても、それだけでは詐欺罪は成立しないであろうし、又被告人が前記四人に右の権利ありと信じて居たならば詐欺の犯意はないわけである。されば原審が此点について審理をしないで、ただ、被告人が何等予め当該選挙人の承認を得たものでないことを十分知つていながら、勝手に選挙人の名義を用いて、本人よりの請求の如く装い、特別投票用紙等の請求手続をしたことが認め得られるという一事をもつて、被告人に詐欺の犯意を認定し得るとして、有罪の第一審判決を維持したのは被告人の行為が罪となるや否やを決すべき重要な事項について審理を尽さずしてたやすく有罪の判決をした理由不備の違法あり、原判決は刑訴四一一条により破毀を免れないものである。

よつて同第四一三条本文に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 宮崎三郎が本件公判に出席した。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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